はじめに
「効率化すれば顧客も業者も得をする」──そんな単純な話ではありません。
現場を見れば分かるように、効率化が顧客満足を高める一方で、業者の収益を削るという矛盾が存在します。
特にクラウド化の進展は、これまでIT業者が得ていた安定収益を大きく揺るがしました。
では、この環境でどう生き残ればよいのでしょうか。
今回はシステムエンジニア時代の実体験を交えながら、効率化が与える負の影響について考えます。
事例:OS再インストールのジレンマ
かつてのオンプレ時代、OSの再インストール作業は典型的な収益源の一つでした。
作業時間の多くは「インストールが終わるのを待つだけ」でしたが、それも含めてサービス料を請求できました。
- 業者視点:待ち時間も売上になる
- 顧客視点:再インストールは短ければ短いほどいい
つまり効率化が進めば進むほど、顧客満足度は上がるが業者の収益は減る──ここに矛盾があるのです。
クラウド移行で消えた収益
クラウド化は、従来のIT業者にとって大きな転換点でした。
オンプレ時代に当たり前だった収益源は、クラウドの普及とともに次々と姿を消しています。
オンプレ時代の収益源 → クラウド時代に消えるもの
- サーバーやストレージなどのハード販売
→ 物理機器を購入する必要がなくなり、クラウドの利用料に置き換わったため消滅 - データセンターの設置・保守サービス
→ クラウドベンダーが提供するため、設置作業や24時間保守といった契約は不要に - OSやミドルウェアのセットアップ作業
→ クラウド環境では自動化され、顧客が数クリックで導入可能になった
オンプレ時代には「販売」「構築」「運用」という三層構造で安定収益が得られていました。
しかしクラウド化によって、その全てが丸ごとクラウドベンダーに移行してしまったのです。
顧客にとっては「安く・早く・確実に」が実現しましたが、業者にとっては大きな売上の空白が生じました。
この空白を埋めるには、小さな付加価値では不十分であり、新しい収益の柱を立てる必要があります。
クラウド時代に求められる付加価値
- セキュリティとコンプライアンス支援
- クラウド標準機能だけでは不十分。
- ゼロトラスト設計、ログ監査、規制対応(金融庁・個人情報保護法など)。
- 「安心してクラウドを使える仕組み」を提供。
- クラウドコスト最適化
- 顧客の多くが「クラウド費用が膨らみすぎて困っている」。
- リソース削減、課金プラン最適化、利用状況の可視化。
- 成果ベースでの報酬設定も可能。
- マルチクラウド統合管理
- AWS / Azure / GCPをまたいだ統制やセキュリティポリシー管理。
- 複雑化する運用を「一元化」すること自体が高付加価値。
- 業務に直結する活用コンサルティング
- 製造業ならIoT+クラウド、金融なら規制対応+セキュリティ強化。
- 「技術」ではなく「事業成果」につながる提案が鍵。
結論
効率化は顧客の利益にはなるが、業者の収益を減らす──。
クラウド化はその矛盾を加速させ、従来の収益モデルを根本から崩しました。
だからこそ必要なのは、
- 時間や作業で稼ぐモデルから脱却すること
- クラウド時代に必ず発生する課題(セキュリティ・コスト・運用)に入り込むこと
- 単発作業ではなく継続課金型のビジネスに移行すること
つまり、
「クラウドを導入する」から「クラウドを安全に・最適に活用し続ける」へ。
ここにこそ、業者が提供すべき新しい付加価値が存在します。
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